送排風機用サイリスタモータの採用 

 恵那山トンネル開通の17年前、昭和33年(1958)我が国で最初の本格的横流換気方式の関門トンネル(3,461m)が開通した。高速道路の施設技術史によると、関門トンネルでは、送排風機に動翼可変型の軸流ファンが世界で初めて採用された1)。送排風機の駆動用モータとしては、高速と低速の切り替えが可能な極数変換型誘導電動機が用いられた。その後、名神高速道路の天王山トンネル(昭和38年(1963)開通)でも、関門トンネルで開発された動翼可変型の軸流ファンと極数変換型誘導電動機の組み合わせ方式が引き続き使用された。2)

 これに対し、恵那山トンネルでは、それまでの動翼可変型ではなく、動翼固定型の軸流ファンを当時の最新技術である無段階変速のサイリスタモータ(サイクロコンバータ+同期電動機)で駆動する方式が採用されることになった。

 恵那山トンネル工事誌には、サイリスタ・極数変換モータの機能比較と経済比較が示されている3)。機能比較では、制御性や効率の面でサイリスタモータが有効であるとされる一方、経済比較では、2変電所と4換気所のトータルコストがサイリスタモータと極数変換モータで差異が0.4%とほとんどないという結果が示されている。サイリスタモータの採用はこれら機能比較と経済比較を踏まえての総合的判断であったのであろう。

 恵那山トンネルの換気機の仕様と、回転数制御時の風量、吐出動圧、電力特性を下の表と図に示す。この図より、風量、吐出動圧、電力がそれぞれ回転数の1乗、2乗、3乗に比例するという軸流ファンの特性が確認できる。

換気所 総排気別 口径
(mmφ)
段数
(段)
風量
Q(㎥/s)
風圧
H(mmAq)
回転数
N(rpm)
電動機出力
(kW)
台数

斜坑地下

送風 2800 160 495 700以下 1215
排風 2800 160 473 700以下 1155
東坑口 送風 2800 160.5 349 750以下 855
排風 2800 160.5 324 750以下 795

恵那山トンネル換気機の仕様4)

斜坑送風機の特性5)

 恵那山トンネルでは、両抗口に設けられた変電所で特別高圧77kV受電し、主変圧量で77kVを22kVに降圧した後、トンネルに並行して掘られた補助坑内に布設した電力ケーブルにより、22kVで回線配電が採用された。 換気所は、両抗口と立坑地下、斜坑地下の4か所がある。各換気所では22kVのケーブルから受電し、降圧変圧器を通して換気設備であるサイリスタモータに580Vが供給された。

 地下換気所に設置されたサイリスタモータと送排風機の写真と据付図を、以下に示す。



送風機とサイリスタモータ(写真)6)
送風機とサイリスタモータ(図面)7)

 恵那山トンネルで採用されたサイリスタモータは、道路トンネル換気用送排風機としては、世界初であった。なお、当時(1975年)の制御用パワー半導体素子サイリスタ(SCR)は、その後パワートランジスタ(IGBT)に完全に置き換わっている。これに伴い、交流電動機の可変周波数電源は、サイリスタを用いるサイクロコンバータはほとんど姿を消し、パワートランジスタ(IGBT) を使ったPWM(パルス幅変調)インバータにほぼ完全に置き換わった。近年、このPWMインバータがトンネル用送排風機に広く使われるようになってきた。恵那山トンネルのサイリスタモータは、この潮流の起源を画するものであり、その歴史的意義は大きい。(つづく)

参考文献:

1) 高速道路の施設技術史 令和元年12月 公益財団法人高速道路調査会 P326

2) 高速道路の施設技術史 令和元年12月 公益財団法人高速道路調査会 P336

3) 恵那山トンネル工事誌 昭和52年7月 日本道路公団名古屋建設局 P714、P716

4) 恵那山トンネル工事誌 昭和52年7月 日本道路公団名古屋建設局 P696

5) 恵那山トンネル工事誌 昭和52年7月 日本道路公団名古屋建設局 P682

6) 恵那山トンネル工事誌 昭和52年7月 日本道路公団名古屋建設局 P685

7) 恵那山トンネル工事誌 昭和52年7月 日本道路公団名古屋建設局 P677