今回は恵那山トンネルの換気制御法(アルゴリズム)について話をしよう。換気制御は、平常時と非常時(火災時)の2種のモードに分かれる。平常時にはトンネル内環境保持と省エネが、非常時には安全性が換気制御法の主目的となる。

 恵那山トンネルで採用された横流換気方式は、非常時(火災時)の安全性に優れており、平常時の換気制御法をほぼ非常時(火災時)にも適用できることが知られている。従って、恵那山トンネルの換気制御法(アルゴリズム)は、主として平常時を対象に検討が行われた。

 ここで恵那山トンネルの換気システムについてもう一度整理しておこう。恵那山トンネルは8469mの長大トンネルであり、その両坑口に送排風機を備えた換気所がある。またトンネルの中間に送風と排風の換気ができる立坑と斜坑を1本ずつもち、それらと本坑との接続部に2つの換気所がある。それら総計4つの換気所が、それぞれ独立の換気区間を担当している。

図1 恵那山トンネルの平常時換気パターン1)

 恵那山トンネルには、両抗口から車両が進入し、トンネル内部で汚染物質(煤塵、CO等)を排出する。この汚染物質を含むトンネル内空気を、排風機でトンネル外に排出し、新鮮な空気を送風機でトンネル内に送入する。平常時には各換気区間の送気量と排気量を同一とし、その区間の汚染濃度基準を保つ最小風量が設定される。

初めての米国出張から帰国し、中央研究所で報告会(1974年6月28日)を終えた後、リンカーントンネルを紹介いただいた日本道路公団の担当次長や、工事事務所の担当課長にお礼とリンカーントンネルの状況の報告に伺った。その時担当課長から、関門トンネルも参考にすることを奨められ、1974年7月25,26日に、恵那山プロジェクトメンバーと共に換気運転状況を視察する機会を得た。

 関門トンネル(3461m)は、リンカーントンネル(約2500m)と同様、横流換気方式であり、送排風機の風量制御には、誘導電動機の極数変換と、動翼角可変の併用方式が採用されていた。また、リンカーントンネルと同様に交通量変化パターンを考慮して、1時間風量一定のプログラム運転が採用されており、トンネル内汚染濃度が基準を下回る場合に運転員が風量を調整する、手動運転が加味されるものであった。

関門トンネルやリンカーントンネルの方法を踏襲することは、実績に基づくためリスクの少ない有力な選択肢である。しかし恵那山トンネルでは、従来のトンネルで採用されてきた動翼可変型軸流ファンにかわって、サイリスタモータによる可変回転数軸流ファンが採用されたのである。可変回転数軸流ファンは風量の変更にほとんど制約がなく、従来の制御周期1時間を、より短くすることも可能である。そこで、トンネル内の汚染濃度を基準内に保ち、かつ電力量最小となる換気制御を新たに開発するという道が選択された。  私は修士課程で最適制御を研究していたが、この時のアプローチ方法を参考にして、まず恵那山トンネルの換気の数式モデルとして簡潔な非線型微分方程式を導いた。そしてこの非線形微分方程式から、基準汚染濃度の近傍で有効な線形差分方程式を求め、換気制御法を最適レギュレータ制御の形式に表現した。

 これらの手順により、換気制御法は、下図に示すように交通量フィードフォワード制御と汚染濃度フィードバック制御を組合わせた最適レギュレータ制御の形に図式化される。

P* 基準発生汚染量
X* 基準汚染濃度
Q* 基準換気風量
Q(k) 換気風量
X(k) 汚染濃度
P(k) 発生汚染量
Gx(k)およびGP(k) フィードバックゲイン
図2 最適レギュレータ制御のブロック図2)

この最適レギュレータ制御を、恵那山トンネル換気シミュレータと組合せ、数値実験を繰り返してその有効性を確かめた。当時、この計算を扱える大型計算機(IBM360)は、大阪梅田の計算機センターにあったため、尼崎の中央研究所から何度も足を運ぶこととなった。

この計算結果から、制御周期は従来の1時間ではなく10分とするのが、汚染濃度保持と省エネの2つの点から有効であることが明らかとなった。ここで得られた制御周期10分は、現在でも我が国の多くのトンネルで採用されている。制御アルゴリズムは、FORTRAN言語で書いた。これは三菱電機製工業用計算機M60(16ビットマシン)に搭載され、恵那山トンネルに納入された。

この方式を研究論文としてまとめ、土木学会誌に投稿した。私は電気工学出身であったが、この論文投稿のため、土木学会に急遽入会したことを懐かしく思い出す。この論文には恵那山トンネルでの実際の運転結果も引用されており、汚染濃度(CO)が一定に保持されていることがわかる。

図3 恵那山トンネルでの最適レギュレータ制御運転結果2)

(つづく)

参考文献:

1) 三菱電機技報 昭和50年(1975年)12月 植木源治 栗田静夫 中堀一郎他「高速道路トンネル換気設備電動機と制御方式」P772

2)土木学会論文報告集 第265号1977年9月 植木源治 中堀一郎 前田和男「長大道路トンネルにおける新しい換気制御法」P83